交通事故で加害者が保険に入っていない場合

1 自動車保険と任意保険

自動車による交通事故によって発生したケガの損害を賠償してくれる保険には、自賠責保険と任意保険があります。

すべての自動車は、自賠責保険に入っていなければ運転することはできないと自動車損害賠償保障法で定められており、自賠責保険は強制保険になっています。

自賠責保険に入らずに自動車を運行した場合は、1年以下の懲役または50万円以下の罰金になりますし、無保険での運転は交通違反として違反点数6点がつくので、即、免許停止処分になります。

自賠責保険は、通常は車検の時に保険金を支払いますので、自賠責保険に入っていないケースは少なくなっています。また、自動車にかかっている保険で、加害者等の意思にかかわりなく使用することもできます。

ただし、自賠責保険は、交通事故で他人が死傷した際に支払われる保険ですが、死傷をした被害者救済のための最低限の賠償しかしてくれませんので、自賠責保険の金額では賠償金全額に足りないことが多くなります。また、自賠責保険はケガについての保険で物損については補償していません。

そこで、通常は、自賠責保険で賠償金が不足した際の上掛けの保険として、任意保険に加入することになります。

このように、自動車による死傷の際の自動車保険は2階建ての構造になっており、被害者ができるだけ救済されるように設計されています。

2 加害者が任意保険に未加入の場合

通常のように加害者が任意保険に入っていれば、加害者に代わって任意保険が被害者の治療費等の支払いをするので、安心して治療を行うことができます。

しかし、近年、任意保険に入っていない方も増えてきていますし、稀に加害者が任意保険を使わないと言い張る場合もあります。任意保険は契約者が保険を使用する意思を示さないと使えませんので、加害者が使わないと言ったり、加害者と保険会社が連絡を取れなかったりすると、加害者の任意保険が対応することができません。

加害者に任意保険がなければ、通常は、車の修理など物損については直接加害者本人に請求し、ケガについては加害者の自賠責保険に請求をしてから不足分を加害者本人にすることになります。

加害者本人が賠償できるほどのお金を持っていない場合も多いですし、自賠責保険に請求するためには原則として治療を一度立て替えることになります。

そこで、場合によっては、被害者が加入している保険の、車両保険や人身傷害補償を使用することもあります。

3 加害者が自賠責保険に入っていない場合

自賠責保険が強制保険とはいえ、加害者が自賠責保険に入っていないこともあります。

加害者が車検の切れた車に乗っていたり、何らかの理由で自賠責保険に入れていなかった場合には、自賠責保険に請求することができません。

そのような加害者は、加害者本人に賠償能力がないことが多くなります。

そこで、加害者が自賠責保険に入っていない場合や、ひき逃げなどで加害者や加害車両が特定できない場合には、政府保障事業によって、必要最小限の救済を受けることになります。政府保障事業は、他の手段によって救済されない被害者のための必要最小限の救済ですので、自賠責保険よりも更に厳しい定めになっています。なお、政府は、被害者に支払った賠償金を、後ほど被害者に代わって加害者に請求します。

4 交通事故の際には弁護士に相談ください

加害者が任意保険に入っていれば、交通事故にあった後は加害者の任意保険と連絡を取り合いながら治療をして、賠償金の支払いを受けることができます。

しかし、任意保険に入っていなければ被害者がご自身の保険を使う場合以外は、ご自身で手続を行っていく必要が出てきます。

交通事故にあったときには、お早めに弁護士にご相談ください。