1 当事者尋問
訴訟が進行して書面での主張・立証がある程度進んだ後、和解ができない時には、当事者の申立または裁判所の職権で当事者尋問を行い、証言を証拠資料とすることがあります。
当事者尋問は、原告や被告、被告が法人の場合の代表者など、訴訟の当事者に対する尋問です。第三者の場合には証人尋問になります。
交通事故の場合には、事故時の状況を一番知っているのは当事者です。また、ケガをした際は、身体の状況を一番知っているは当事者です。
訴訟において、事故状況や過失割合、ケガによる身体の支障などが問題となっている場合には、当事者尋問の際の当事者の証言が重要な証拠とされることがあり、当事者が裁判所で直接証言をすることになります。
2 当事者尋問前の準備
当事者尋問を行う際には、まずは、申請する側が前もって陳述書を作成して提出し、証拠申出書と尋問事項書を提出します。陳述書で、あらかじめ当事者尋問で証言する具体的な内容を明らかにし、主尋問では陳述書に沿って質問と回答をします。
陳述書と違う回答をしてしまうと、真実かどうかを疑われてしまいます。通常は、事故から訴訟までにかなりの時間が経過していますので、よく思い出しながら記憶のとおりの書面を慎重に作成し、尋問当日もその記憶に基づき証言することになります。
尋問事項書では、尋問の当事者、尋問予定時間、証明しようとしている事実、尋問事項などを明らかにし、裁判所が採用するかどうかを決定します。
3 尋問前の手続
当事者尋問は、裁判所が開廷している時間に行われますので、平日の日中の裁判所の改定時間内に公開の法廷で行われます。
当事者尋問の当日は、通常は、当事者は代理人の弁護士と一緒に法廷に行き、証人等出頭カードに署名押印をします。あらかじめ宣誓書に署名押印をしておいたり、この際に身分証明書の提示を求められて本人確認をされることもあります。尋問が始まるまでは、傍聴席か原告代理人の隣に座って待っていただくことが多いです。
当事者尋問の際には、まずは、申請をした側の主尋問が行われますが、当事者が移動する際には裁判官から指示がありますので、基本的にはその指示に従ってください。
まず、当事者が、裁判官に証言台に移動するよう指示されて移動し、裁判官から、話をする際には裁判官の方を向いて話すなどの注意事項の話がありますので、注意事項に従ってください。
尋問の際には、質問をする代理人は証言台の横から質問することになります、証言台では裁判官やマイクのある正面を向いて回答をしなければなりません。慣れていないと少しおかしく感じるかもしれませんが、回答の際には常に裁判官のいる正面に向かって回答してください。
次に、当事者が人違いでなく本人であるかを確認する人定質問を行います。氏名や住所、生年月日を答えるだけですが、引っ越したばかりで住所を多少間違えても、大きな間違いがなければ大丈夫です。
その後、宣誓書を手にもって声を出して宣誓書を読み上げます。宣誓後、裁判官からは、記憶と異なることをわざと証言すると、過料の制裁がある可能性があることなどを注意されます。
4 主尋問
主尋問では、通常は、陳述書の流れに沿ってなるべく当事者自身が口頭で準備書面や陳述書で主張していた内容の裏付けとなるように、背景なども説明しながら内容を説得的に回答していきます。尋問の時間は、内容にもよりますが、交通事故の場合には、当事者1名につき30分から1時間くらいの場合が多く、時系列に沿って1問1答の形で回答していくことが多いでしょう。
質問は、当事者が弁護士を依頼しているときは弁護士が行い、弁護士を依頼していない時は、裁判官が代わりに行います。回答の際には、自分の記憶のみで回答をしなければならず、書面などを持ち込むことはできないので注意が必要です。思い出しながらゆっくり回答をすると、当事者が思っているよりも時間がかかりますので、ご注意ください。
また、主尋問では、原則として誘導尋問が禁止されていますので抽象的な質問しかできず、緊張とも相まって質問の意図が分からなくなることもあります。弁護士が質問を言い換えて対応しますが、質問により何について回答するのかをきちんと打ち合わせておく必要があります。
5 反対尋問
主尋問の後、相手側が反対尋問を行います。反対尋問は、申請者側のこれまでの主張や主尋問の内容と矛盾する点や不自然な点を浮かび上がらせるための質問です。
反対尋問では、誘導尋問が許されていますので、具体的な質問がされることもあります。
いくつかの質問に「はい」と答えているうちに、前の回答や主尋問の回答と矛盾が生じたりズレたりすることがありますので、よく考えて正確に答えなければなりません。
反対尋問で申請者側の主張が疑わしいものであると裁判官に判断されてしまうと、判決の結論が変わることもある重要なものです。反対尋問は主尋問と同じくらいの時間か、少し短いくらいになることが多いでしょう。
6 再主尋問、再反対尋問
場合によっては、その後に当事者側から再主尋問や再反対尋問が行われることもあります。
再主尋問は、反対尋問で当事者がうまく答えられなかったり回答が適切でなかったと思われる質問について、改めて証人の答えやすい方法で質問をし直したり確認するものです。再主尋問は、反対尋問をフォローするものになります。
その後、相手側が再度反対尋問を求め、裁判官が特に認めた場合には再反対尋問が行われます。再反対尋問は、行われないことも多いです。
7 補充尋問
主尋問と反対尋問が行われた後、裁判官が必要に応じて補充尋問を行います。裁判官の質問は重要な点の確認が多く、裁判官が特に確認しておきたい事項がある場合に行われます。補充尋問の回答により結論が左右されることもありますので、よく思い出して回答しなければなりません。
8 尋問終了後
尋問が終わったら、裁判官から元の席に戻るように指示がありますので、元の席に戻って他の方の尋問などが訴訟が終わるまでお待ちください。