同乗者と被害者側の過失

1 過失相殺

 民法722条2項は、「被害者に過失があったときには、裁判所はこれを考慮して損害賠償の額を定めることができる」と規定しており、これが損害賠償の際に過失相殺がされる根拠となっています。

 そして、民法722条2項の過失には、単に被害者本人の過失だけでなく、広く被害側の過失をも含む趣旨と解するのが相当である旨の判例があり、被害者と一定の関係がある場合には「被害者側の過失」として過失相殺されるとされています。

 例えば、親が運転している車両に乗っていて、親がが他の車と交通事故を起こした場合、同乗していた幼児の損害賠償の際には、親の過失が考慮されるのです。

 もちろん、単に同乗していただけでは、通常、同乗者は第三者として通常は過失相殺されません。

 では、どの程度の関係があれば被害者側の過失として過失相殺の対象となるのでしょうか。

2 被害者側の過失の考え方

 被害者側の過失は、「被害者と身分上ないしは生活関係上一体をなすとみられるような関係にある者」(最判昭和42年6月27日判決)といえるかどうかで判断されており、直接の加害者との公平上、経済的にも被害者と一体をなす実態が必要とされています。大まかにいうと、被害者と財布が一つと言えるような関係にある場合には、被害者側の過失として過失相殺をしてもよいと判断されているのです。

 例えば、双方に過失がある事故で親の車に同乗していた幼児がケガをした場合、本来は親にも子どもに過失分の損害を賠償する責任があります。共同不法行為ですので、加害者双方に全額を賠償する義務がありますが、全額を賠償した者は、他の共同不法行為者に自分の過失分を超えた賠償金の求償ができるようになるのです。

 そこで、加害者が他の加害者と共に損害発生に寄与している場合において、加害者が被害者との関係では全損害額を負担した後に共同不法行為者に対して求償をするよりも、被害者側の過失としてあらかじめ過失相殺して支払うなど内部関係として処理する方が公平かつ合理的です。

 つまり、加害者が、一旦被害者に損害を全額支払いした後に親に求償し、親が子どもの受け取った損害賠償額から求償された金額を支払うよりは、最初から親の責任分を控除して子どもに支払うほうが、先に支払った加害者が親からの求償金を受け取れないリスクもなくなり、公平かつ簡便なのです。

 「被害者側の過失」とは、損害の公平な分担という見地から認められる紛争の一回的解決のための手段なのです。裁判例上は、「被害者側の過失」は、家計を同一にする夫婦・親子間の関係が第一義的に想定されていますが、内縁の夫婦などこれに準じるような関係の場合には、同乗者であっても過失相殺される可能性があります。また、夫婦であっても、婚姻関係が破綻しているような場合には、過失相殺が認められない可能性もあります。

 3 その他の同乗者の過失相殺

 保険会社から、家計が全く別の他人である同乗者について、好意同乗の際などの際に無償で同乗していたから賠償金を減額すると主張することもあります。裁判例上、明確に被害者側の過失が否定されているケースであっても、保険会社側が「被害者側の過失が成立する」と主張するケースがあり、保険会社が様々な理由で過失相殺を主張して損害賠償額を減額しようとすることがあります。

 第三者である同乗者に過失相殺がされるのは、同乗者自身が事故発生に寄与している場合や、同乗者自身が事故の損害拡大に寄与していた場合、同乗者の車を他人に運転させて事故を起こした場合など、限られた場合のみです。

 例えば、飲酒、無免許運転、疲労困憊などの危険が発生する事情を知っていて運転を止めなかった場合、運転中に運転者を驚かせたり、速度違反や信号無視などの交通違反をするように囃し立てたりして安全運転を妨害して事故の原因を作ったり事故に関与していた場合、同乗者自身がシートベルトをしていないことでケガが酷くなった場合、同乗者が自分の車を一時的に他人に運転させていて運行供用者といえる場合などは、過失相殺の可能性があります。

4 同乗者のご相談

 同乗者に被害者側の過失として過失相殺をされるかどうかは非常に複雑です。

 また、本来は過失相殺が認められないような場合でも、保険会社側から過失相殺を主張されることもあります。

 交通事故の同乗者がケガをされた場合には、お早めに専門家である弁護士にご相談ください。